第43回 則武継雄の公開講座 第4章総まとめ講演90分 VOL.2劣化は水分と汚れから
VCBを更新しなければいけなくなる原因として、最も多いのは、汚損と水分の侵入により、絶縁物が劣化し、絶縁抵抗が短絡発生事故の危険領域に達し、清掃等の絶縁回復対策を施しても、どうにも回復できない場合です。
これは、VCB自体が、高圧電気の電圧に耐えられないということであり、大抵はその絶縁物自体の劣化が原因となるものです。
勿論小動物の侵入による短絡事故発生の場合もありますが、これは、外被からの侵入経路を確実に塞ぐことで対応は可能です。

絶縁物の劣化で、特に留意するべきなのは、VCBが収納されている配電盤の中で発生するものです。
まずは、配電盤の種類ですが、高圧電気管理技術者のみなさんが担当している配電盤の規格として代表的なものとしては、JEM1425と、JIS C4620があります。
絶縁劣化対策をする場合、この両方の規格で製造された配電盤を全く同じもの考えがちですが、盤内の構成に違いがあるため、全く同じ対策をとるという考え方には問題があります。

JIS C620による受電盤は、図のように、同じ箱体中に高圧機器であるVCBと、主たる発熱機器である変圧機器と、低圧機器が全て一緒に収納されており、箱体内に大きな発熱機器があることから、盤内の空気温度はかなり高目となり、放熱のため盤の下部に吸気口、上部に排気口を設けて自然換気により放熱して空気温度を低下させる必要があり結露対策として、盤内の相対湿度のコントロールすることはかなり困難であるという状況があります。
配電盤としての数量は、圧倒的にJIS盤の方が多くありますので、両者の特徴を理解した上で、適切な対策を取る必要があります。

対して、JEM1425によるJEM規格盤は、変圧器は、独立して屋外に配置されています。
VCBなどの高圧機器は、独立した高圧盤に収納され、MCCBなどの低圧機器は、やはり独立した低圧盤に収納されるため、盤内の温度上昇は、比較的抑えられますので、換気口は小さくてもよく、また、盤内の相対湿度をさげるために、空気温度をあげるためには、温度管理の容易なスペースヒーターを必要数設置すればよい訳であり、比較的相対湿度のコントロールはやりやすく、外部からの汚損侵入を防ぎやすいという特徴があります。

盤内のVCBが絶縁劣化して発生する最も恐ろしい事故が、相間短絡事故、地絡短絡事故であり、JISキュービクル盤では、主にVCBは受電用遮断器として使用されますので、問題が発生した場合は、電力会社内の遮断器による遮断保護を必要としますので、必然的にその遮断器の負荷側に接続されている他のユーザーの電気設備も停電となる波及事故となります。
受電VCBより負荷側で発生した短絡事故であれば、自社のVCBが遮断するだけですみますので、他のユーザーの設備には波及しませんが、受電VCB自体が絶縁劣化した事故は、波及事故となりますので、JISキュービクル盤の中で最も絶縁劣化に注意しなければならない機器は、受電に使われているVCBということになります。

JRのホーム等から線路側で見かける金網で囲った屋外盤は、小動物の接近からは、高圧機器を保護できますが、雨風は、直接機器にあたりますので、金網内に設置されている機器は全て屋外用の機器で、雨風に耐える様設計され製造された機器です。
皆様が担当するJISキュービクル盤内の機器は、屋内盤、屋外盤を問わず、盤内の機器は全部が屋内機器であり、雨風には耐えられないものであり、屋内機器の使用条件に沿って、管理され保護されなければなりません。
屋内機器の使用条件は、温度は、―5℃から40℃であり、相対湿度は、45%から85%、(保護Ryは80%)汚損度は、0.01mg/cm2となっています。この汚損度も値が、0.01mg/cm2 という汚損のレベルは、肉眼では判別できないものであり。
特殊な測定器を使うか、一定面積をアルコール綿で、汚れ拭き取った後に、精製水に溶かし、電気抵抗等で測定しなければ判別不可能なレベルの汚損となります。

下図は、絶縁物表面の絶縁抵抗が、相対湿度の違いによってどのように変化するかをあらわしています。
実験結果では、相対湿度が、70%位から85%位に変化することで、絶縁抵抗が大きく減少して危険領域に入っているのが判ります。
ここで、注目するべきなのは、試験対象の汚損度であり、0.03mg/cm2と、規定されている汚損度の3倍あるということで、この検証結果により、絶縁抵抗は、水分と、汚れの複合作用によって、大きく低下することであり、相対湿度を下げることと、汚損度をさげることが、絶縁抵抗の低下対策として有効なことが判ります。逆にいえば、絶縁低下という現象をもたらすのは、水分と汚れの複合作用であるといえます。

汚損度を下げるには、定期的な清掃が必要ですが、絶縁物の表面を清掃するためには、当然ながら設備を停電させる必要がありますので、頻繁に行うことはできません。
まめな方でも年に一度の定期検査の時くらいしかできません。
従って、常時行える対策は、相対湿度を丹念に下げる対策が最も有効なことが判ります。
相対湿度をさげる有効な手段として、盤内温度を上げることがありますが、これば空気中に含まれ得る水分が、温度によって大きく変化することを理解する必要があります。
つまり空気中に含みうる水分は、温度が上昇すれば、ちょうど、水が入った伸び縮みするコップで考えることが理解しやすいことになります。

伸び縮みするコップに水が満杯に入っている状態が、相対湿度100%で、コップに半分の水が入っていれば、相対湿度は50%となるわけです温度が急激に下がって、コップが収縮した場合に、入っている水が収縮したコップより多ければ、その水は行き場をなくして、噴出しますが、それが結露になるという訳です。
配電盤を横から見た場合を図は、示しており、温度の高い盤内で、伸びたコップに収納できていた水も、壁面が、冷たい
外気に冷やされますと、コップは収縮しますので、行き場のない水は壁面の内側に、結露となって噴出する訳です。
又、外気がたとえ相対湿度100%でも、収縮した状態に、目一杯の水が入っているわけですので、盤内に入って、温度が上昇し、コップが伸びてくれますと、水の量は変わりませんので、相対湿度は、下がることになります。
この原理で、盤内の空気温度を外気より、ある程度高めておけば、たとえ相対湿度100%の外気が盤内に入っても、相対湿度はさがることが判ります。

この図は、配電盤に対する外気の相対湿度を徐々に100%にしていった場合に、盤内の空気温度が、外気より、どのくらい高ければ盤内の相対湿度が、どのくらい下がるかを示しており、目安として、5℃くらい高いのが85%以下にコントロールできることが判ります。
勿論10℃上げれば、湿度対策上はもっと下がりますが、他の機器が、温度上昇により、問題となる可能性があるため、5℃くらいが適当な温度上昇です。

これは、盤の構造の違いによる汚れやすさを比較したもので、縦軸が等価塩分付着量で、汚れの度合を表しており、横軸が経過月数です。当然ながら、ファンの力で、換気を行う強制換気の盤が多くの大きな汚れを吸い込みますので、一番汚れやすく、次が、自然換気で、一番汚れにくいのが、外気を遮断している密閉形であることがわかります。
この比較の中で、意外に、屋外盤が汚れにくいのは、一度汚れてしまった盤でも雨によって汚れが洗い流されてキレイになるからです。

1998年から、2000年頃にあった事件ですが、日本国内で、絶縁劣化による短絡事故が多発したことがあります。
主に相間短絡事故により、波及事故が多発して国内では大問題になりました。
則武は、その時JEMAの汎用高圧機器業務推進員会の委員長をしており、その対策に走り回ったことが縁で、今でもこうした絶縁劣化対策に関係している訳ですが、発生した当時は、発生原因や対策があまり知れ渡っていなかったため、盤内の水の侵入を直接防ぐような間違った対策が、講じられる例が発生し、却って別の問題を引き起こす要因なったこともあり、正しい対策を広く啓蒙する必要があったのですが、発生理由や対策を説明している適当な資料が少なく、あっても有料(1000円以上/冊)で販売されているため、説明会を開催しても、配布資料の購入に多大な費用がかかり、またこうした説明会に使う資料にも、著作権上、有料販売されている資料からの直接引用が困難という状況でした。
その有料の資料としては、JEMAが発行しているもの(技術資料)が1冊、またJSIAで発行されているもの(事故事例集)も1冊ありました。
則武は当時、JSIAの委員もしていましたので、両方の委員会のあいだを取り持って、お互いの資料の必要な部分を抜粋して、合成し無料で、配布できるパンフレットをJEMAより発行しましたが、それが、この「キュービクル敷高圧受電設備を安全にお使いいただくために」であり、発行者は、JEMAとJSIAの連名になっている珍しいものです。

当時発生した事故で、一番多かったのは、図にある「ゲタ基礎」構造のもので、主に、ビルの屋上に設置された受電盤で、2本の矩形のコンクリ―ト棒の上に、JISキュービクルが設置されており、その2本の棒の間に長期にわたって蓄積された汚れが、大きな雨風が発生した際に、盤の下に吹き込んだ雨がゆかに残っている汚れを溶かして、有害な水となり、風の力で、上方に吹きあがって、盤内に侵入したものです。
JIS受電盤の床は、換気のための多くの換気口が空いているため、そこから盤内に吹き上がって、VCBなどの屋内機器の絶縁抵抗を低下させ、短絡事故を発生させたものです。
この床面の換気口がこの事故の原因と即断した電気管理技術者が、床面をガムテープなどで塞ぐような対策をを取りますと、盤内の自然換気が正常ではなくなり、温度上昇が極端に高くなり、別の問題を発生させた事故が発生した訳で、正しい対処方法は、2本の棒状のコンクリートの吹き込み口用意した板などで、塞いで、風が吹き込まないようにすることであると、この資料は対策を具体的に解説しています。

絶縁物表面に、汚れが残りますと、そこに入った水分が、汚水を作り、微小な高圧電流が流れることになりますが、電流が流れますと、当然ながら、熱が発生しますので、その熱により、水分を蒸発させます。水分がなくなりますと、電流が流れやすい経路は、流れにくくなりますが、一度流れてしまった電流は、それでも電流をながそうとしますので、小さなアークを発生させますが、これが、絶縁物の表面を炭化させて、これが少しずつ延長されていくことをトラッキングといいます。
これが、電極間や、対地間でつながりますと、相間短絡事故や、地絡短絡事故となる訳です。一度発生したトラッキングは、そのまま絶縁物表面にのこりますので、基本的に回復はできません。この場合VCB自体を更新するしかないのですが、その間の応急処置としては、炭化した部分を削り取るしかありません。
こうなると、VCBの機械的強度は低下しますので、結局は、更新するしかない訳です。

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